2016年3月の記事一覧

《校長日誌》『無私の日本人』

 歴史学者の磯田道史さんが書いた『無私の日本人』(文春文庫2012年)を原作とする映画「殿、利息でござる!」が5月に公開されます。藩主が農民・町民から年貢や町人足役などで徴税をしていた江戸時代に、宿場町の人々が藩主から貸金の利息金をとるという実話の映画化です。

 仙台藩領の吉岡という貧乏な宿場(宮城県大和町)の酒屋穀田屋十三郎が主人公です。伝馬役という藩の荷物運びの苦役が重く、宿場町から夜逃げする者が続出します。家数が減れば1軒あたりの負担が増加し、夜逃げが増えるという悪循環に陥っていました。穀田屋は、宿場の旦那衆と相談し、旦那衆9人が出し合い、総額千両(現在の価値で約3億円)の基金を作り、それを仙台藩に年利10%で貸し付け、毎年3000万円の利息をとり、100軒ある宿場の家々に30万円づつ配る制度を作って衰退を止めたそうです。フィギュアスケートの羽生結弦選手が仙台藩主伊達重村の役で出演しているのも話題です。

 学校の授業で教わった日本史も大きく変わっています。時代劇などでは江戸時代の殿様は近世ヨーロッパの絶対君主のように描かれる場合があります。封建体制といわれる江戸時代の幕藩体制においては、行跡の悪い殿様を家老らの合議による決定により、強制的に監禁するという行為もありました。1988(昭和63)年に第10回サントリー文芸賞を受賞した歴史学者の笠谷和比古さんの『主君「押込」の構造』(講談社学術文庫2006)で注目され、江戸時代の幕藩体制への認識が大きく変わりました。

 過去の「知識」や「常識」だけにとらわれてしまうと、「どうせ出来ない」と思い込みがちです。「知識」も定期点検しないと陳腐化してしまいます。混沌とした現代には新しい発想が必要だと思います。


《校長日誌》第26回卒業証書授与式

 本日は、鳩ヶ谷高校の第26回卒業証書授与式でした。3年生274名が元気に卒業していきました。昨年度同様、卒業生答辞の場面では、走馬灯のように思い出が駆け巡り、卒業生の多くから涙が見えました。最後の校歌斉唱では、一人一人が大きな声で校歌を歌い、感動の卒業式でした。今回は、式辞の一部をご紹介します。18歳選挙権をとおして「自由と責任」「権利と義務」についてお話をしました。

 
皆さんは、本日、鳩ヶ谷高校からそれぞれの夢と希望を持って、新たな道へと歩み出していきます。皆さんが歩み出す今日の社会は、ちょうど5年前に発生した東日本大震災からの険しい復興への道のり、混沌とした国際情勢、不安定な経済状況など、課題が山積しています。このような時だからこそ、一人一人の「自由と責任」「権利と義務」がとても大切です。
 そこで、皆さん自身が対象者である「18歳選挙権」をとおして大人としての「自由と責任」「権利と義務」についてお話します。
 大人とは何歳からなのでしょうか。電車やバスの運賃は12歳以上、自動車運転免許は18歳以上、飲酒は20歳以上など大人の年齢は異なります。

今年の夏の国政選挙から選挙権年齢が18歳以上に引き下げられました。それまでの「選挙権年齢は20歳以上」というのは、昭和20年に定められたものなので、今回は70年ぶりの歴史的な大改正となります。
 現在
、18歳までに選挙権を付与している国はおよそ90パーセントにものぼりますので、世界の趨勢に則した改正といえます。この改正により、およそ240万人の18歳、19歳の方が有権者となります。
 なぜ、70年ぶりの大改正が行われたのでしょうか。若者の選挙離れも背景の一つです。平成26年12月に行われた第47回衆議院議員選挙全体の投票率は52%でしたが、20歳代の投票率は32%でした。投票率の低さは日本だけの問題ではなく、民主主義の発祥地であり先進地でもある欧米でも同様です。国政選挙では、英国66%、フランス57%、ドイツ71%、米国36%と、日本を始め、欧米の民主主義国家の政治が閉塞感を強めています。英国の首相であったウィンストン・チャーチルは「民主主義は最悪の政治形態であると言える。ただし、これまで試されてきたいかなる政治体制を除けば」と述べ、民主主義の素晴らしさを説いたことがあります。
 日本の場合、若者の投票率の低さは、選挙に対する理解不足も要因の一つかもしれません。候補者や政党の情報を収集する方法としては、選挙公報、政見放送、街頭演説やインターネットなどがあります。選挙は投票日に投票することが原則ですが、期日前投票の制度があります。投票日に仕事や用務のある人は、期日前であっても投票ができます。今回の公職選挙法改正で、選挙権年齢の引き下げ以外には、選挙運動も18歳からできるようになります。選挙運動では、候補者や政党等以外の者が電子メールを使って選挙運動をしたり、選挙運動用ホームページや電子メールなどをプリントして配ることは禁止されています。
 人間は年齢を重ねて子供から大人に成長するなかで、自由は拡大し、様々な権利が与えられるようになります。しかし、自由には責任、権利には義務が伴います。自分自身で獲得したものならその重みを自覚できますが、何となく与えられたものではその重みになかなか気付きません。今回の「選挙権」の重みをしっかりと認識し、大人としての自覚を持ってもらいたいと思います。
 私は、これまで選挙を棄権したことは一度もありません。時に誰に投票してよいのか分からない選挙もありましたが、自分なりに判断して一票を投じてきました。選挙は、自分の意見を政治に反映する機会です。高校を卒業する皆さんには、大人の一人であることを自覚し、世の中をしっかりと支える人になってもらいたいと思います。
 最後になりましたが、卒業生の保護者の皆様、お子様のご卒業、心からお祝い申し上げます。皆様には、PTA会員として、本校の教育活動に対し、温かい御理解とお力添えをいただきましたことに厚く御礼申し上げます。
 卒業生の皆さんの、これからの大きな活躍を心から願いまして、式辞といたします。